グリーフワーク・グリーフケアについて
人は死別などによって愛する人を失うと、大きな悲しみである「悲嘆(GRIEF)」を感じ、長期に渡って特別な精神の状態の変化を経ていきます。遺族が体験し、乗り越えなければいけないこの悲嘆のプロセスを、「グリーフワーク」と言います。
この悲嘆の状態は、心が大怪我をしたような状態ですが、自然に治癒の方向に向かいます。遺族はやがて、故人のいない環境に適応して、新しい心理的・人間的・社会経済的関係を作っていきます。「グリーフワーク」を経ることで、人は人間的に成長するのです。この「グリーフワーク」のプロセスを支えて見守ることが「グリーフケア」です。悲嘆は愛する者を失った人が体験する正常な反応であり、誰もが「グリーフワーク」のプロセスを歩みます。「グリーフワーク」のプロセスには、個々人によって違いもありますが、一般的なパターンがあります。この一般的なプロセスを正常な「グリーフワーク」とすれば、これからズレた病的な「グリーフワーク」の状態もあるのです。「グリーフケア」は、人が正常な「グリーフワーク」を歩むようにサポートすることです。最近では、徐々にではありますが、グリーフワークについて勉強し、グリーフケアを意識した接客や葬儀を行うことを心掛ける葬儀社や、グリーフケアを行う会を紹介してくれる葬儀社が現れました。あるいはなんらかの形でそういった会を主催する葬儀社も少なくはないようです。
◆グリーフワークのプロセス
ショック期
最初、愛する人の死に接した時、人は茫然として、無感覚の状態になります。一見冷静に受け止めているように見えますが、これは現実感を喪失した状態なのです。死があまりに大きなショックであるため、はっきりした反応が現れないのです。また、正常な判断ができずに、パニック状態になることもあります。
喪失期
死を現実に受けと止め始めますが、まだ充分に受けとめられない段階です。号泣や怒り・敵意、自責感などの強い感情が、次々と繰り返し表れます。故人がまだ生きているように思ったり、そう振舞うこともあります。また、生前の故人と同じ症状が現れることもあります。この段階では深い悲しみが最も一般的な反応ですが、しっかり泣くことが重要です。医者などの誰かに、故人の死の原因を押し付けて敵意を向けることもあります。
閉じこもり期
死を受け止めることができた段階ですが、そのために、従来の自分の価値観や生活が意味を失って、うつ状態に陥り、自分が存在していないような無気力な状態になります。生前にしてやれなかったことに対して、あるいは自分が死の原因を作ったのではないかなどの、自責感に襲われることも特徴です。
再生期
故人の死を乗り越えて、新たな自分、新たな社会関係を築いていく時期です。積極的に他人と関われるようになります。
これらは一見、異常と思える状態ですが、悲嘆の反応としては、正常なのです。
「グリーフワーク」の期間には、個人差はありますが、第1〜第2段階は1〜2週間が一般的です。また、「グリーフワーク」全体の期間は、配偶者の死別の場合で1〜2年、子供の死別の場合は2〜5年ほどと言われています。
◆グリーフワークの反応
身体的症状
身体的苦痛、のどの緊張感、呼吸障害、疲労感、食欲喪失、消化に関する諸症状、睡眠障害、気力喪失、頭痛・嘔吐・消化不良・筋力の欠如・動悸などの身体的愁訴、故人と同じ症状の出現、アルコールや薬の依存 など
心理的症状
故人の面影にとりつかれる、思慕、罪責感、憂鬱、不安、怒り、敵意、孤独、自尊心の欠如、絶望、非現実感、疑い深さ、幻覚 など
行動的反応
号泣、故人の行動の模倣、行動パターンの喪失 など
認知的反応
思考・判断速度の低下、集中力の欠如 など
日本人に特徴的と言われているのが、「思慕」の感情を長く引きずることです。
ただ、思慕のあり方は変化してきます。死別直後は、故人が亡くなったことを認められないような形の思慕であったものが、徐々に、故人を思い出として大切にしていくような思慕に変っていきます。繰り返しになりますが、こういった反応・感情が起こることは、基本的には正常なことなので、自他共に、これを否定せずに受け止めていくことが必要です。悲嘆の反応が、遺族の中で違う場合、様々な問題が起こります。
1人が悲しみで落ち込んでいると、そのためにもう1人は悲しみに耐える傾向があります。すると、落ち込んでいた人が立ち直った時には、逆にもう1人の方には悲しみが襲ってきます。また、1人が故人の思い出にひたりたいにもかかわらず、もう1人が忘れようとしていれば、互いに相手を理解できず、衝突してしまいます。個々人の悲嘆の表れ方の違いを理解して、互いに相手を思いやる必要があります。?
◆病的な悲嘆
死別者の10〜15%が「病的な悲嘆」に陥ると言われています。その一つの症状は、「グリーフワーク」の長期化・慢性化です。もう一つは、悲嘆の遅滞です。これは、逆に現れるはずの正常な悲嘆の反応が現れないことです。まったく何事もなかったのように振舞う人もいますし、死を喜んで受け入れるように見える人もいます。ですが、これは悲嘆の感情を抑圧しているだけで、いつか、それが増幅した形で現れることになります。悲嘆の反応は抑圧せず、それを受け入れ、表現する必要があります。また、他人に対する怒りなどが積み重なり、人間関係が正常に営めなくなるような、ゆがんだ悲嘆に陥る場合もあります。
病的な悲嘆に陥った遺族には、専門医によるカウンセリングや、薬物療法などが必要になります。